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 『ポスト・マルクス主義の社会像』

                                           (1991年 農文協刊)  ⇒農文協「田舎の本屋さん」はこちら

                                                          ⇒目次はこちら

内容紹介

 ソ連・東欧において、命令的行政システム・集権的計画経済システムとしての社会主義が崩壊し、市場経済システムへの移行が進行するという事態が生じて以降、資本主義的市場経済システムの矛盾を根底から克服するものとして構想された社会主義および、それを理論的に基楚づけたマルクス主義の思想は、すでに破産したものとみなされている。社会主義・マルクス主義に対する真摯で徹底した批判的検証が行われることもなく、それらの思想は捨てられ、顧みられない、というのが一般的な思想状況である。

 それは、一種の思考停止である。そのため、市場原理主義的な経済政策が実施されることによって、市場経済システムの矛盾がさまざまなかたちで現われているにもかかわらず、資本主義的市場経済システムの矛盾を根底的に克服した新しい社会システムを構想する本格的な試みは、ほとんどなされていない。『ポスト・マルクス主義の社会像』は、ソ連・東欧における社会主義の崩壊という状況の中にあって、マルクスの資本主義分析およびそれに基づく社会主義像が立脚する社会認識の本質的限界がどのようなものであるかを明らかにするとともに、その限界を克服した社会認識の枠組みにおいて現代資本主義を分析することによって、新しく創出すべき社会システムがどのようなものであるかを具体的な形で提示したものである。

 では、マルクスの社会認識の本質的限界とはなにか。それは、マルクスが近代科学の方法的立場に基づいて、資本主義的市場経済システムを客観として対象化し、そこに貫徹する普遍必然的な法則を解明した、という点にある。近代科学の方法的立場とは、自然を客観として対象化し、そこに因果的運動法則すなわち重力の法則が貫徹する決定論的なシステムとして捉えるニュートン力学が、その基礎を形成したのである。アダム・スミスは、この方法的立場を経済学に適用し、資本主義的市場経済システムを普遍必然的な法則が貫徹する決定論的なシステムとみなした。マルクスは、このアダム・スミスの方法的立場を継承し、『資本論』において資本主義的市場経済システムに価値法則が重力の法則のごとき必然性を持って貫徹することを解明した。それは、価格メカニズムによって、需要と供給を自動的に調整するという情報処理、資源処理機能を有するシステムである。

 したがって、マルクスの客観的な社会認識は、その枠内にとどまるかぎり、客観的に認識された社会の根底の次元に於いて、自由な諸個人が自主的かつ個的・共同的に情報処理・意志決定を行い、社会的な資源配分・処理を制御する――という関係構造を、原理的に包摂することができないのである。これが、近代科学の方法的立場を継承したマルクス経済学の社会認識が有する本質的な限界である。マルクスの社会主義像を超える新たな社会像を掲示し得るか否かは、そのことを明確に把握し得るか否かの一点にかかっていると言っても過言ではない。

 そのような把握を共通認識として、社会主義・マルク主義に対する徹底的な批判的検証が為されなければならなかったのである。しかし、そのようなことは為されず、社会主義・マルクス主義は、いまや捨て去られ、忘れ去られようとしている。

 普遍必然的な法則に従って自己完結的な運動を展開する資本主義的市場経済システムの成立と一体的に、それに対応するものとして、それを客観的に認識する社会科学としての経済学が成立した。マルクスは、資本主義的市場経済システムを客観的に分析し、そこに内在する矛盾を解明した。そして、その矛盾を止揚するものとして、社会主義という新たなシステムを構想した。しかし、この新たなシステム像も、客観性という資本主義分析と同一の枠内において提示されたものでしかなかった。そこに、マルクスの資本主義分析の枠組みの狭さに規定された、社会主義像の枠組みの狭さがある。

 マルクスの資本主義分析を客観性のレベルで完結させることなく、それを、その根底の次元に関する根源的社会認識のうちに統合しなければならない。そのような根源的で総体的な社会認識の形成と一体的に、客観的な社会システムをその根底の次元に統合した新たな社会像を提示するこが可能となる。

 本書では、社会の根源的次元の存在構造を、<場所−資源−情報>という近代科学とは異なるカテゴリーよって具体的に分析している。それによって、社会の根源的な場所に於いては、意志決定を中心とする情報処理に基づいて資源処理を制御する自由な諸個人の間に、相互主観的・間身体的な調和が実現する――という構造を明らかにすることができる。このような根源的社会認識の内にマルクスの客観的な資本主義分析を統合することによって、資本主義的市場経済システムが、諸個人が個的・共同的意志決定に基づく行為によって相互の調和を実現する能力を全面的に発現させ、相互補完的に個性的で全人格的な生活を実現することをを抑圧している、ということを明らかにすることができる。 

 そのことは同時に、根源的社会システムの内にどのようなかたちで客観的社会システムを統合すれば、自由な諸個人が相互補完的に個性的で全人格的な生活を実現する能力を全面的に発揮することができるか、ということを明らかにすることでもある。そのことをより具体的に解明するために、本書では、経済学の基本的なカテゴリー即ち、所有、労働力、労働、生産力、生産関係を<場所−資源‐情報>というパラダイムで捉え返している。

 そのうえで、新しい社会システムへの転換点としての現代資本主義が、その内に新しい社会システムの可能性をどのように形成してきているかを、社会科学のそれぞれの専門分野の分析を媒介として、労働組織形態、生産組織、社会的な生産と消費システム、産業組織、について具体的に解明している。

目次

 はしがき

第1章 現存社会主義はなぜ破産したか

 第1節 指令型・集権的計画経済の特性と限界

 第2節 集権的システム克服の方向性

 第3節 既成社会主義理論の根本的転換のために

第2章 近代社会システムの根本矛盾

 第1節 資本主義市場システム像のとらえ返し

 第2節 市場原理と生活原理との対立

第3章 社会の根源的本質の存在構造

 第1節 人間の情報処理・行動制御の構造

 第2節 人間の相互関係の資源―情報的構造

第4章 社会の経済的諸関係の資源−情報的構造

 第1節 経済的範疇のとらえ返し

     <所有><労働力><労働><生産力><生産関係>

 第2節 新しい社会システムの基本構造

第5章 新しい社会システムへの転換点としての現代資本主義

 第1節 国家独占資本主義の蓄積体制

 第2節 新しい社会システムの可能性の形成

第6章 新しい経済システムの可能性はどのように形成されているか

 第1節 新しい労働組織形態の可能性

 第2節 新しい生産組織の可能性

 第3節 新しい社会的な生産と消費システムの可能性

第7章 経済システムの社会システムへの包摂の方向性

 第1節 政治・経済システムとインフラストラクチャー

 第2節 閉鎖的法システムから開かれた法システムへ

 第3節 行政装置と生活世界の関係の根本的転換

 あとがき

 


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