『文明の危機と人類史の未来』 全3巻 (1996年 農文協刊)
第1巻 世界と歴史の存在構造 ⇒農文協「田舎の本屋さん」はこちら
第2巻 人類史の再構築 ⇒農文協「田舎の本屋さん」はこちら
第3巻 新地球文明の展望 ⇒農文協「田舎の本屋さん」はこちら
内容紹介
現代は、近代西欧文明の行き詰まりが明らかになり、その根本的な転換が迫られている人類史の大きな転換期である。にもかかわらず、人類は、近代西欧文明を乗り越えてゆくべき歴史の展開方向をはっきりと見定めることができない、という状態にある。その根本的な原因は、近代西欧文明と一体的なものとして形成された西欧の近代的歴史認識を根本的に転換させた、新しい歴史認識を形成し得ていない、ということにある。『文明の危機と人類史の未来』全3巻は、この新しい歴史認識の形成という全人類的な思想課題と取り組んだものである。
克服すべき近代的歴史認識の最も典型的なものは、ヘーゲルの『歴史哲学』において展開されているものである。ヘーゲルは、インドや中国の歴史を、それらが停滞的であるということを理由として、本来の世界史から除外する。こうして人類史は、古代から近代西欧文明へとつながる文明の歴史的発展の系譜として描かれることになる。それが、オリエントに始まり、ギリシャからローマをへてゲルマンに至る単系の歴史の進行という、西欧中心の歴史認識である。マルクスの唯物史観も、ヘーゲルの西欧中心的な歴史認識を基本的に踏襲している。
だが、人類史は、単系的に進行してきたわけではない。文明は、東洋においても、西洋においても、砂漠・草原地域に発祥した。即ち、チグリス・ユーフラテス川、ナイル川、インダス川、黄河という四つの大河流域が、それである。これらの地域に成立した古代文明は、やがて、その両側の森林地域に伝播してゆく。西に向かっては、オリエントを起源として文明が、地中海をへてゲルマン世界へ、というコースをとって伝播・拡大してゆく。一方、東へ向かっては、中国北部に成立した文明が、中国中部から朝鮮をへて日本へ、あるいは、インド西北部に誕生した文明が、東南アジアへ、という移行のコースをたどって新しい文明を生み出してゆく。それよって、比較的乾燥した砂漠・草原地域の自然生態環境に適応した文明が、より湿潤な森林地域という異なる自然生態環境に適応した新しい文明を生み出していったのである。
このように見てくるならば、西欧中心主義的な近代的歴史認識は、文明のみを対象とし、自然生態環境を包摂できない、という文明中心主義という限界をも有していたのである。この近代的歴史認識の限界は、西欧起源の近代科学技術文明が全地球的規模にまで拡大することによって露呈することとなった。
近代西欧文明は、工業生産システムと資本主義的市場経済システムとが一体となって運動を展開してゆくことによって、発展を遂げていった。その運動を推進力として、グローバルな近代世界システムが成立したのである。このシステムは、物量的生産力の無限の発展、利潤極大化という目的を実現するために、あらゆる地域の自然の諸力と人間の諸能力を利用しつくそうとする。
こうして、近代西欧をモデルとする開発・発展は、それぞれの地域の諸個人が、固有の自然生態環境と調和した文化を形成するとともに、それぞれの地域の自然と文化の総体の享受によって全体的な自己を実現する――ことを抑圧するである。環境・資源・エネルギー・食糧・人口・人権などの地球規模の問題群の発生は、その現われである。それらの諸問題は、地球上のすべての自然の諸力と人間の諸能力が、全人類の一人ひとりの全体的発展のためにに利用されていないことを示している。
このような事態を根底的に克服するためには、西欧中心主義的・文明中心主義的な近代的歴史認識を根本的に転換させた、新しい歴史認識を形成することが必要となる。本書では、新しい歴史認識の基本的立場を、西欧中心主義的・文明中心主義的な歴史認識を乗り越えようとしたトインビー・ヤスパースの多系的文明的史観、梅棹忠夫・上山春平の生態史観を継承・展開して、次のようなものとして提示している
それは、文明系と生態系(自然)が歴史的生命の世界に於いて根源的に統一される――という世界認識の構図によって人類史を捉える、という立場である。歴史的生命の世界とは、自然の諸力と人間の諸能力が、諸個人の行為によって統一されてゆく根源的実在界である。それらの行為的自己の働きを通じて歴史的生命が発現してゆき、文明系が歴史的に発展させられてゆく。歴史的生命は、人類史の進展を起動づける原動力なのでる。
新しい歴史上認識の立場によれば、自然史と人類史は、歴史的生命の世界に於ける諸個人の行為的現在の一瞬一瞬に統一されてゆくものとして捉えられる。行為的自己は、歴史的生命の創造的尖端として新しい歴史を創り出してゆくのである。根源的実在界に於いて、諸個人が、創造的な歴史的生命の世界の創造的要素として働きあうことあうこと通じて、歴史的生命の世界が、それぞれの地域に自己を個性的なかたちで表現してゆく。それによって、それぞれに固有な文化・文明を有する諸地域が成立し相互交流を展開してゆく。それが、文明系・生態系と歴史的生命の世界の本質的な連関構造である。
近代科学技術文明が全地球的規模にまで拡大したことによって生み出された近代世界システムは、その内に地球上のあらゆる地域を包摂した。だが、近代世界システムの運動を制御してきた自然科学・社会科学は、自然と社会を、歴史的生命の世界から分離した客観的存在として認識した。即ち、近代の自然科学と社会科学は、歴史的生命の世界という根源的実在界を認識対象とすることができないのである。
したがって、客観主義的な科学的認識によって制御される世界システムの運動は、歴史的生命の世界が行為自己の働きを通じてそれぞれの地域に固有な文化・文明の内に個性的に自己を表現することを抑圧することになる。こうして、先述したように、近代世界システムは、あらゆる地域の自然の諸力と人間の諸能力を、物量的生産力の発展のための手段として利用することになる。その結果、このシステム包摂された諸個人は、その地域の自然と文化の総体を享受することによって、全体的な自己実現をすることが不可能になるのである。
ここに、近代世界システムの根本的矛盾がある。だが、歴史的生命の世界を認識対象とすることのできない近代的歴史認識は、そのことを明らかにすることができない。したがって、近代的歴史認識は、近代世界システムを根本的に転換させてゆく方向性を指し示すことができないのである。
新しい歴史認識の立場からするならば、近代世界システムは、地球上のすべての地域を同一の依存関係の内に包摂したがゆえに、すべての地域が歴史的生命の世界を共通基盤として、それをそれぞれの地域に固有な文化・文明の内に個性的に表現するものどうして相互交流し、調和し得る新しい世界システムへと転換すべきである、ということが明らかになるのである。本書は、以上のような立場に立ち、人類史をその始源にまで遡って具体的に捉え返すとともに、その未来を展望したものである。
東進文明と西進文明が、人類史上、初めて本格的かつ大規模なかたちで遭遇した時代である現代は、それだけに地域間のさまざまな対立、グローバル・ローカルなさまざまな問題が生じている。それらの対立・問題は、近代世界システムの枠内では根本的に解決することはできない。地球上のあらゆる地域の諸個人が、新しい世界システムの理念像の実現に向けて多元的・多重的なネットワークを形成してゆくことによって、はじめてそれらの対立・問題の根本的な解決が可能となるのである。
なお、本書で展開された歴史認識を、『絶対無の哲学』『創造的生命の形而上学』の哲学・形而上学の体系の内で捉え返すことによって、人類史の転換方向をより根源的・総体的な枠組みにおいて理解することができるであろう。
第1巻 世界と歴史の存在構造
はじめに
? <総説>文明の危機と人類史における現代の位置――地球危機克服の思想概論――
1 近代西欧文明への諸地域の隷属とその転換方向
近代西洋文明の普遍化と地域間対立の激化
近代世界システムに隷属させられた諸地域
近代的自我と内的・外的自然の不調和
文明系の成立と歴史的生命の発現
諸地域間のコミュニケーションの本質構造
多様な地域・地域交流圏の解体・再編
世界システムと地域交流圏との統合
近代国際秩序に代わる新しい世界秩序
2 西欧中心の歴史認識の限界
文明系を対象とする近代の社会認識・世界認識
文明中心・西欧中心の近代的歴史認識
総体的世界認識による人類史の把握
理性が支配するヘーゲルの世界史
西欧近代に自由を実現した絶対精神
物質的生産力を原動力とするマルクスの唯物史観
文明系の次元でとらえた人類史の過去と未来
時代的制約にもとづく人類史・世界史像
近代世界システム転換の原動力
3 新しい歴史認識の立場
近代文明と自然の対立をとらえる総体的世界認識
文明系と歴史的生命の世界と自然との媒介・統一
歴史的生命の世界を個性的に表現する地域
歴史的生命の発展の桎梏と化した近代世界システム
文明系の発展と自然との相互作用
人類史に貫徹している創造的原理
多様な文明の誕生と多系的発展
新しい文明交流圏・世界システムへの転換
4 近代文明形成に至る人類史の顕開
対自然関係の違いによる文明の二類型
相補的な二つの文明形成の原理
平行して発展した東進文明と西進文明
理性の立場で西進文明をとらえた世界史
東洋・西洋にわたる諸文明の交流と伝播の歴史
歴史的生命が分化・発展してゆく人類史
近代世界システムによる文化・文明の均一化
合理主義文化の理性による世界の把握
二つの文明形成原理の分裂・対立
現代の科学・哲学によるパラダイム転換
東西文化を統合した普遍文化の創出
5 人類史における現代の位置と新しい地球世界創出の方向
世界と歴史を創造してゆく行為的現在
創造的原理が貫徹する人類史の始元と根源
人類史の目標としての全人類的価値理念
歴史的生命の世界からの文明系の乖離と再統合
全地球的規模での自然との対立に陥った近代文明
新しい地球文明の内実の形成へ
より高次の秩序の形成に向かう全自然史
自然=文明系という開放システムの創出
6 新しい歴史単位としての地域
資源配分を調整する中央政治システムの欠如
国際的市場経済システムへの地域の隷属
主権国家を対象とする近代政治理論の限界
新しい地球世界の理念像の現実化
新しい世界認識の日常文化への具体化
地域間ネットワークの多元的・重層的形成
? 文明系と自然の関係を根源から総体的にとらえる世界認識――地球危機時代の世界認識の方法――
1 客観化された文化から生の直接経験への還帰
生物の物質・エネルギー処理と情報処理
人間に固有の生体外物質代謝と生活秩序の形成
文明系の成立と自己完結的運動の展開
世界の根源的次元を把握できない近代の世界認識
<世界>を現出させ関係づける運動感覚
人間の情報処理の根源的ありかた
サイバネティックスによる運動感覚の分析
身体を自動的に制御するフィードバック機構
内部環境に向かう身体器官の制御
外向的・内向的感覚の統合と<世界>の現出
内的自然と外的自然を統一した直接経験
新しい意味・文化を形成する基底・基盤
2 歴史的生命の世界からの文明系の形成
情報の主体的な選択・淘汰による意思決定
自由な生命活動の基底にある運動感覚・共通感覚
知覚の直接経験からの主観と客観の分化
主・客が再合一された知・情・意の直接経験
世界と自己を根源的に関係づける行為的直観
呼びかけと応答による意味づけ
世界の分節化による文化体系の形成
道具を介した労働による物質的生産
歴史的身体としての能動的に働く労働主体
歴史的生命の世界が自己限定した物の生産
人工環境・文化体系という存在分節体系の形成
人格的生命の成立と新たな創造
3 世界総体の存在構造と行為的自己
物質・エネルギーと情報によって構成される全自然
人間固有の外的自然・内的自然との相互作用
四つの存在領域に向かって開かれた人間
人間の相互関係と共同的意思決定システム
根源的共同体とライプニッツのモナド
創造モナドとして働きあう行為的自己
創造的モナドロジーの世界の存在構造
行為的自己の自由な創造行為による文明系の変革
根源的一般者の個性的表現としての個人
世界を構成する三つの次元総体の運動形式
文明系と自然の関係を根底からとらえる世界認識
4 地球世界と地域社会
各地域に固有の外的自然の生態環境
内的自然である無意識・深層意識の組成構造
地域に固有の物質的文化・精神的文化の成立
全地球的普遍性と地域的個別性の統一
地球世界の単位としての地域社会
自立し相互結合してゆく地域の内発的発展
歴史的生命の世界の個性的表現となる地域社会
地域文化と地域的な集合的無意識の交流・統一
文化的地平融合と地域社会の調和
? 文明系と自然の相互作用の総過程をとらえる歴史認識――地球危機時代の歴史認識の方法――
1 歴史的生命の発現過程としての人類史
文明系の発展過程を分析した近代の歴史学
歴史的生命と文明系が相互的に発展する人類史
言語と道具の使用による歴史的生命の成立
創造的原理と文明系の論理の相互依属的統一
自然史と人類史の段階的進行と平行
過去・現在・未来を区別する人類史の時間
無限の過去と未来が同時存在的な行為的現在
<瞬間>と<今>が相互依属的に統一される歴史的現在
新しい人類史をつくりだしてゆく共同現在
文明系の発展と歴史的生命の発現
創造的な生と文化形象の対立
創造的原理に背反するする既成の文明系の否定
2 人類史の始元と目標
歴史の発展の阻害と新しい創造的発展
歴史的生命の質的発展による人類史の発展
人類史の展開過程の四段階
人間と世界の関係構造の展開過程との対応
文明系と自然が調和する第四段階の可能根拠
行為的現在からとらえた人類史の始元と目標
いつの時代にも宿る理念的極限としての目標
非連続の連続的に進行する人類史
歴史の自覚としての歴史認識と人類史の転換期
3 地域社会の相互交流の歴史としての人類史
個人の生活史・地域社会の歴史・地球世界の歴史
三つの歴史の場所的統一と調和した発展
文化進化における特殊進化と一般進化
多系的な地域社会史と普遍的な地球世界史
普遍文化の分化と地域の個性的文化の発展
地球文化と地域文化の相互媒介と歴史的伝統
地域社会の相互交流による文化の普遍化と個性化
普遍化しグローバル化した近代西欧の科学技術文明
多系的な地域社会の相互交流による歴史形成
人類史の目標を実現する普遍文化の創出へ
? 世界の論理的存在構造からみた文明の二類型――東洋型文明と西洋型文明――
1 自然・文化・文明の関係からみた文化形成原理の二つの型
自然環境が文化の型に及ぼす影響
自然と人間の受動−能動関係による文化の形成
「風土」としての自然環境と地域社会の文化
風土的歴史の発展過程を解明する文化生態学
共通の自然環境の型に適応した歴史的発展の類似
地球の自然環境と文化・文明の二類型とその統一
湿潤な東洋的自然と乾燥した西洋的自然
人間と自然の関係の違いによる文化・文明の二類型
世界の二つの運動形式=論理に対応した文化・文明の形成
東洋型の論理‐場所的弁証法と的西洋型の論理−過程的弁証法
西洋の過程的運動の論理と東洋の場所の論理の統合
西洋のロゴスの論理学の近代における大成
東洋のレンマの論理と世界的思想体系の完成
東西の論理の相補的統一と世界文化・文明の形成
自由な行為的自己に支えられた東西の文化・文明の統合
2 文化・文明の二類型
a 農業
農業文化の成立と東洋型・西洋型の二類型
西洋の休閑農業と東洋の中耕農業
自然搾取型の西洋農業と自然−人間循環型の東洋農業
人間と自然のかかわりかたによる農業の二類型と統一
b 宗教
宗教的直接経験を共通の基盤とする宗教の二類型
キリスト教の人格神・絶対者と大乗仏教の悟り・真実在
超越者としての西洋の絶対者と東洋の絶待者
東西の論理・超越者のとらえかた・形而上学の二類型
宗教成立の根源的基盤からの統一的把握
c 芸術
自然環境の違いに応じた東洋と西洋の芸術様式
芸術的行為主体と美的対象との相関関係
芸術美中心の西洋芸術と自然美中心の東洋芸術
歴史的生命の世界からの芸術の二類型の統一
3 相補的な二類型の分裂した現代文明
全人類共通の根源的基盤である生の直接経験
普遍文化の拡大・個性的地域文化の発展と統合
歴史の運動形式・時間意識・歴史観の二類型
歴史の過程的進行と場所的始元の相補的統一
西洋型文明の発展・普遍化と科学技術文明の成立
工業生産の論理が貫徹した西洋型農業文化の普遍化
近代の物質文化グローバル化と地球生態系との対立
無意識の力を制御する手段を喪失した近代西欧
宗教の分野での二つの文化形成原理の分裂
近代西欧哲学による東洋的精神文化の否定
近代の物質文化・精神文化の限界と二つの文化・文明類型の対立
第2巻の内容案内
第2巻 人類史の再構築
? 既成の歴史観の限界とその克服方向――歴史観批判 ヘーゲル・マルクス・トインビー・ヤスパース・梅棹・上山――
1 西洋中心的・西洋限定的歴史認識
a ヘーゲル
人類史の二つの系譜と西洋中心的歴史像の形成
『歴史哲学』における民族精神と自然類型の関係
世界史とその自然的基礎に対する視界の狭さ
過程的弁証法・ロゴスの論理学の枠組の狭さ
東洋型の文明形成原理を包摂できないヘーゲルの論理
精神の本質である自由の発展過程としての世界史
西洋文明の歴史と東洋文明の歴史を包括した世界史像の形成
b マルクス
人間が相互作用する自然環境の違いと文明類型
大地の領有から定住による土地所有への転化
本源的所有のアジア的・古典古代的・ゲルマン的形態
文明の発展段階を構成する三形態と階級的所有への移行
資本主義に至る西洋の歴史に限定された発展図式
文明系の次元をロゴスの論理でとらえた階級社会の歴史
ロゴスの論理とレンマの論理の相補的統一による人類史
新しい世界認識による西洋中心的な世界史像の克服
2 多系文明史観
b トインビー
複数の文明の比較研究と西洋中心の文明単一説の批判
23の文明で構成される文明表による世界史像
多元的な歴史認識の限界と統一的な全人類史
多系文明史観と二系譜歴史観を統合する世界史像
論理=世界の運動形式からとらえる西進・東進文明の系譜
文明の出会い・複合体からの新しい文化・文明の創造
近代西欧文明と非西欧文明の衝突と文化複合体形成
東西文明の全地球的規模での出会いと統合の方向性
b ヤスパース
西洋中心の世界史像の批判とトインビー批判
統一的な人類史像形成の枠組――先史時代・歴史・世界史
歴史の統一の根拠・実存への超越による歴史的意識
歴史の根源である行為的現在としての充実された現在
先史時代・古代高度文化・枢軸時代・科学=技術時代
枢軸時代おける人間存在の根源の発見と第二の枢軸時代
総体的世界認識と同一の基盤からの統一的歴史認識
東西の時間・歴史意識・論理=文明形成原理の統合
3 生態史観(生態学的歴史観)
a 梅棹忠夫
サクセッション理論をモデルとする人間=環境系の運動過程
生態学的構造の相違にもとづく第一地域と第二地域
自成的な第一地域と他成的な第二地域の歴史の進行パタン
文明中心主義の歴史認識をのりこえる自然=人間系
生態系からそれを基盤とする文明系への人間の推移
文明系と生態系が媒介・統一された総体的歴史観へ
東進文明と西進文明の第二地域から第一地域への進行
文明のサクセッションのクライマックスへの方向性
b 上山春平
ヘーゲルの世界史認識の西欧的偏向を継承したマルクス
西進文明と対等な東進文明と総体としての人類史
乾燥地帯から森林地帯へ 東西の二系譜による人類史認識
生産方法の発展・先進地域の移動へ生態史観を展開
人類史の二系譜を根源から統一してとらえる歴史認識
農業革命と産業革命を画期とする人類史の三段階区分
普遍的な物質文化である農業文化・工業文化の形成
農業生産と工業生産を再結合した農業=工業社会へ
? 自然と文明系の関係からみた歴史の段階――新しい歴史段階論――
1 第一段階
樹上生活に適応した霊長類の脳や中枢神経系の発達
意識した生命活動・ヒト化へ向かう準備期間
地球環境の変化に適応した地上での生活様式の変革
道具と言語の使用によるヒトの誕生と自然からの自立
意識的自我の形成によるシンボル性の情報処理
文化体系・人工環境・社会システムを媒介とする生命活動
歴史的生命の成立と人間の人格的生命の成立
人間に独自の生体外進化の確立と人類史の成立
全人類と全地球自然との適応・統一の可能性
生活圏拡大・身体形質の変化と三大人種への分化
新しい物質的・精神的な生活様式の確立
自然の制約下での文明系の未成立
2 第二段階
a 農業革命
環境変化への適応としての農業の開始
外的自然の諸力を制御し新システムを形成
潅漑農業にともなう文明系の生態系からの分離・独立
生態系・文明系における物質・エネルギー循環
物質的・精神的生活領域における文明系の基本構造の確立
世界総体の本質的存在構造が成立した古代文明
b 精神革命
世界と自己の根源的関係を自覚した精神革命
農耕を開始した段階での呪術的・神話的思考様式
根源的次元に超越的実在を直観する哲学的思惟の成立
ギリシャにおける神話から自然学・哲学への移行
インドにおける世界原理の探求・根源知の獲得
中国における天の思想・礼の文化の完成
イスラエルにおける神と人間との契約関係・根源的関係
四つの地域で達成された世界の根底からの自覚
3 第三段階
a 科学革命
自然現象の法則を数学的に表現する近代自然科学
数学的理性に純化された主観と客観の二元分離
コペルニクス的転回による近代的世界認識の成立
経済学・社会認識の対象=客観とされた社会
文明系の次元での近代科学の世界認識の本質的限界
根源的次元との関連を断ち切った近代科学の進歩
b 産業革命
自然を制服した工業生産と科学技術文明の誕生
道具から機械への発展による生産力の増大
有機的自然の制約から解放された近代工業生産
利潤極大化を追球する資本主義的市場経済システム
自然から自立した文明系での生産による廃熱・廃物の発生
文明系の基盤である生態系の破壊と二つのシステムの調和
歴史的生命の世界から遊離した物質的・精神的生活
根源的次元を忘却した近代的知識の限界の現実化
? 文明の発展と拡大――東進文明と西進文明――農業文化・宗教文化の展開と統合――
1 農業文化の東進・西進
農業文化の二類型と西洋中心的農業起源説
複数の農業文化の独立発生と多系的発展
高い生産力をうみだす穀物の伝播と移動農業
治水・潅漑技術による乾燥地帯での穀物の定着農業
自然からの文明系の自立をなしとげた農業文化の歴史
熱帯湿潤地帯の根菜栽培から温帯乾燥地帯の穀物栽培へ
ドライ・ファーミングへの移行と西洋型・東洋型の保水農業
農業文化の二類型の成立による東西の文明類型の確立
文明系の自立による人類史の進行と東西の文明の展開
東方・西方の温暖湿潤地帯への穀作農業の移動
新しい農法による農業生産力の増大と文明の東進・西進
地域の自然環境とかかわる農業技術・労働様式の発展
自然の潜勢力の発現と人間の自然制御能力の発達
2 宗教文化の東進・西進
超越的実在・超越者をとらえる宗教の二類型
多神教から唯一神崇拝へ 集団表象としての宗教
自立した都市国家での精神革命・哲学思想の発展
個として世界に対峙させられた人間存在の根源の探求
超越的実在に対し世界総体における人間の位置を自覚
バラモン教・ユダヤ教の成立と階級的・民族的制約
すべての人間を平等とみなす仏教の成立
自由な個人・人格として神に相対するキリスト教
超越的実在をロゴスとレンマの論理でとらえた二つの世界宗教
宗教的直接経験における人間の自覚=歴史的生命の自覚
世界帝国への伝播・普及よる世界宗教の社会的確立
東進・西進した仏教・キリスト教の国教化・固有文化との融合
東西の湿潤地帯への伝播と独自の宗教文化の成立
西洋型の世界宗教となったイスラーム教・帝国の拡大
地域の内的自然と結合し制御してゆく世界宗教の発展
高度宗教の本質剥離による固有の宗教文化の成立と普遍化
3 東進文明と西進文明の統合
物質文化と精神文化 科学と宗教の分裂・対立
東西の物質文化と精神文化の統合による近代文明の転換
a 農業文化の統合
農業の工業化化による自然破壊と近代農業の限界
地域性をもつ農業技術の画一化と日本農業の衰退
農業文化における二つの論理=文化形成原理の分裂・対立
農業形態の原初的姿としてのアグロフォレストリー
近代農業と原初的農業の両極的な二形態の対立
生態系の潜勢力と人間の潜在的諸能力の相互的発現による発展
地域の伝統的農業文化と結合する近代農業と自然との調和
b 宗教文化の統合
意識と無意識が統一され完全な人格が成立する宗教的直接経験
無意識の諸力を制御し人格的発展・自己実現をめざす宗教
無意識・情念にかかわる底層流を否定・追放したキリスト教
理性の絶対化・自我膨張と無意識からの破壊的攻撃
合理主義的精神文化と内的自然の不均衡とその克服
大乗仏教の唯識思想の潜在意識・アーラヤ識と悟り
人格成立の根底からの宗教の二類型の相補的統一・調和
宗教と科学 物質文化と精神文化の根源的統合へ
<補論>「長江文明」の世界文明史における位置について
黄河文明と同等の長江文明の遺跡の発見・学説の提起
西洋型文明の源流=オリエントと東洋型文明の源流=中中国
東西の農業文化の東進・西進と近代農業のグローバル化
日本農業の複合農業様式の源流 イナ作と森林の共存
農業のモノカルチャー化・危機を克服する農業文化の統合
二つの文明形成原理の分裂・対立と全地球的規模での統合
? 社会システムの諸形態と歴史――近代世界システムの転換――
1 歴史的生命の世界と社会システム・世界システム
原始共同体→都市国家→世界帝国
文明の中心−周辺間の伝播・受容と独立文明の自立
世界帝国の継承と封建社会→資本主義世界経済
社会システム内の分業と互酬的経済・再分配経済・市場経済
貢納制の一形態とみなされる封建制の独自の歴史的位置
諸個人を相互補完的に媒介・統合する社会システムの発展
歴史的生命の世界における人格間の根源的共同性
個人−地域社会システム−世界システムの相互関係
単一の世界システムの形成と歴史的生命の世界
2 社会システムの諸形態
a ミニシステム
原始共同体から階級社会への移行
自然的生諸条件に対する原始共同体の本源的所有
自然と人間 個と共同性の本質的関係についてのマルクスの認識
根源的共同性が分化・再結合されるに至らない原始共同体
媒介された生命活動の未発達と共同体に埋没した個人
b 世界帝国
貢納制経済への移行と階級的所有の成立
剰余労働の収奪と支配・搾取関係の再生産
地域を超えた相互依存関係と収奪の原理・支配の原理の現象
物質的・精神的交通の普遍化と全人格的生活実現の抑圧
世界帝国に内在する根本矛盾の現われとその崩壊
c 封建制
乾燥地帯の世界帝国における地域社会の自立性の欠如
湿潤地帯への移動による地方分権的な封建社会の成立
人類史の段階的発展・社会システムの発展のなかの封建制
自立性を有する農民・地域共同体の相互依存関係
横の相互依存関係への根源的共同性の発現と地域共同体の閉鎖性
d 資本主義世界経済
商品経済の浸透による農奴制の解体と本源的蓄積過程
資本主義社会の成立と自律的運動を展開する市場経済
労働=生産過程・社会的共同関係の根底の歴史的生命の世界
自立した個人の析出と転倒した物象的依存関係
資本主義世界経済による地域共同体・世界帝国・ミニシステムの解体
二つの系譜における社会システムの歴史が単一の世界システムへ統合
根源的な人格的依存関係・全人格的生活実現の可能性
3 新しい世界システム創出の方向
ウォーラーステインが描く社会主義世界政府への移行
創造的原理・相互補完性の原理が貫徹する歴史的生命の世界
歴史的生命の世界と社会システムの統一による根源的共同性の発現
共同性と個 社会システムと諸個人の分裂・対立とその克服
歴史貫通的な相互補完性の原理が発現した社会システムの諸形態
諸社会システムを根源的次元から統合した新しい世界システム
社会システムの歴史全体のなかでの社会主義の位置づけ
自己制御機構としての市場経済システムの排除
貢納制を基礎とする世界帝国の現代的形態
地域社会システムの相互開放的依存関係と世界システムの創出
世界的な中央調整システムと自立的な地域社会システムの調和
第3巻の内容案内
第3巻 新地球文明の展望
? 文明の危機を克服する世界認識の形成――現代諸科学・諸学の統合――
根源的な人格的依存関係の発展と世界システムとの対立
近代の客観主義的世界認識による根源的次元の忘却
現代の科学と哲学の総体を統一した世界認識の形成
1 自然科学
客観的記述が不可能な現代物理学の対象とする世界
歴史的生命の世界と同一の存在構造を解明した相対性理論
主体と対象が行為において相補的に統一される量子力学
自然(物質界)に基礎を有する創造的原理・相互補完性の原理
より高次の世界である生物界・生態系の存在構造
地球生態系とすべての生物が統一された生物的生命
総体的世界認識のうちに位置づけられる新しい自然認識
2 社会科学
文明系を自己完結的システムとして客観化する近代の社会認識
自然と文明系の矛盾・対立を生じさせる社会認識の枠組の狭さ
エコノミー=エコロジーの循環総体システムを対象とする経済学
生態系と媒介・統一され文明系の一構成要素となる経済システム
諸個人の社会的調和・相互補完を実現しうる社会システム
古典的政治学の枠組の狭さと神学・形而上学的次元による基楚づけ
政治権力・政治システムを対象とした近代政治学の限界
創造的原理・相互補完性の原理を貫徹させる新しい政治観
実定法秩序を対象とし価値の問題をなおざりにした近代法学
対自然関係を含む相互主観的コミュニケーション関係の形成
3 人間科学
存在を意味づけ分節化する言語体系・言語学と根源的次元
内的・外的自然を統一し意味をうみだすランガージュ
制度化された文化体系をとらえる社会学と諸個人の自己表現・変革
行為的自己によって歴史的生命の世界と統一される文化体系
文化とその源泉である内的自然・無意識を解明した精神分析学
集合的無意識・本来的自己の顕現をとらえる深層心理学
歴史的生命の世界の創造作用と統一された自我・全体的人格
文化人類学が分析した文化体系の全領域の根源的基盤
現代の諸科学の統合と世界認識の相対化・具体化
4 哲学・宗教学・倫理学・美学
客観的世界の根底・歴史的生命の世界を解明する現代哲学
近代哲学の客観主義を批判するフッサールの現象学
生の世界・根源的生活世界=開放的モナドの共同体
世界と人間との根源的統一を把握した高次的・具体的世界認識
西田哲学の創造的モナドロジーの世界の全体と個の調和
真理認識の根源的基盤に還帰した哲学
人倫という枠組を超え生の直接経験の事実を問う倫理学
人間と人間・自然と文明系の調和を実現してゆく根源的倫理主体
絶対者を直観する人間成立の原点・歴史的生命の自覚としての宗教
世界総体の存在構造に貫徹する創造的原理の自覚と生の共同
美的価値・芸術的直観が成立する根源的次元に還帰する美学
歴史的生命の創造的作用への結合 芸術美と自然美の統一
歴史的生命の世界の解明と全人格的価値の形成
5 新しい科学革命・精神革命の方向
根源からの諸科学・諸学の統合と世界における人間の位置の自覚
人格成立の根源・人間の自覚=世界の自覚の達成と喪失
根源的実在界・直接経験を根底とする創造的人間の成立
世界総体と全人格的生活との根源的統一関係の自覚
西洋哲学の存在忘却の歴史・表象的思惟の終末
存在・根源的次元を解明する現代ヨーロッパ哲学と東洋思想の遭遇
大乗仏教がとらえる根源的実在界である空−縁起の世界
仏教思想を現代哲学化した場所の論理・絶対矛盾の自己同一
全人格的価値が実現される根源的実在界の開明への東西思想の対質
現代の倫理学がとらえる絶対無の場所における我と汝の関係
人間成立の原点・真の絶対者をとらえる新しい宗教学の形成
東西の芸術の遭遇と両者を統一的に把握する新しい美学
東西思想の対質・統合によって実現される新しい精神革命
精神革命・科学革命の達成と人間的生の自己分裂の克服
? 全自然史のうちに人類史王を包摂した歴史認識――宇宙史・地球史・生物史・人類史――
1 宇宙史−地球史−生物史−人類史
創造的原理の貫徹・新しい世界形成の理念の自覚
創造的エネルギーの自己組織化=世界の秩序化の現段階
物質進化と天体進化が相互的に展開してゆく宇宙の歴史
環境と物質の相互作用をつうじた進化と創造的原理の貫徹
太陽・地球の誕生と地球システムの形成・進化
地球のサブシステムの相互作用と太陽・宇宙空間との相互作用
物質代謝・自己複製という特性をもつ生命の誕生と進化
地球環境と生物の相互進化と生物的生命の分化の進行
生物の遺伝情報の変化による環境への適応と地球生態系
媒介された物質代謝をする人間の誕生と歴史的生命の成立
多様な文明の成立・発展と新たな世界秩序の創出
2 歴史の創造的尖端としての人間
情報によって自己組織化・発展を続ける創造的エネルギー
自然史と人類史の始元からの統一的認識=全歴史の自覚
歴史的生命の世界・行為的現在における全歴史の根源的統一
自然史・人類史の平行的・相関的進行と相互作用・調和
人間に固有の時間の三次元性・意識された時間
歴史の全過去と全未来が同時存在的な行為的現在の<瞬間>
行為的自己の共同現在を基盤としてつくられる新しい歴史
人類史の究極的理念の実現へ向かう歴史の創造的尖
?? 新しい地球文明・世界システムの展望――新しい生活文化と地域社会――
1 新しい生活文化の形成
イデアと実在の統一による新しい歴史・文明系の創造
近代文明を否定する人類史の究極的な創造のイデア
日常的生活世界に蓄積された常識的な知識とその限界
常識の限界を克服し社会システムの運動を規定する学的知識
近代の客観主義的な世界認識の日常的生活世界への浸透
客観主義化した常識的知識・近代的な行為のパタンの本質的限界
新しい世界認識の具体化による新しい生活文化の創出
2 新しい地域社会=地球世界関係の創出
固有の生活文化をもつ諸地域の相互交流と調和
東西の諸文明の交流圏の形成・相互交流による人類史の発展
文化・文明の交流・伝播の歴史と全人類の力による地域の成立
歴史的生命の創造作用による諸地域社会の相互的発展
単一の世界文明交流圏の形成と文化・文明の同質化・画一化
歴史的生命の世界の個性的表現形態としての地域社会
主権国家・民族国家を単位にとする国際政治システムの再編
地域社会のネットワークと地球世界政治システムの創出
おわりに
事項索引
人名索引