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 『市民社会と共同体――マルクス思想を総体化する――
                                                   (1979年 農文協刊)  ⇒農文協「田舎の本屋さん」はこちら

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内容紹介

 本書が執筆された背景には、1960年代後半から70年代初頭にかけて、市民社会論や共同体論への理論的関心が高まったという思想的動向がある。そのような理論、思想の動向は、戦後の歴史的発展過程を通じて発展、成熟を遂げてきた市民社会が、急速にその矛盾を露呈してきたことのうちに現実的な根拠を有していた。このような現実的動向と相俟って、既成のマルク主義、社会主義論の枠組みを超えたマルクスの市民社会論、共同体論に関する研究成果が注目されることになった。

 本書は、そのような現実的・思想的動向を踏まえ、市民社会の本質的な矛盾はどのようなものであり、それを現実的に止揚した共同体とはどのようなのものであるのか、という問題に取り組んだものである。このような問題設定は、既成社会主義・共産主義像に対する批判にもとづいて為されている。

 そのことについて、本書の<序>は、「既成の社会主義・共産主義像は、社会的分業の発達による依存関係の全面化よって極度にアトム化され、画一化され、主体性、自我すら解体されつつある市民社会における諸個人の存在様式を変革し、社会関係と諸個人との対立を克服するものとしては、あまりにも抽象的・部分的なものでしかなかった。あるいはまた、既存の社会主義社会の現実も、現下の市民社会の矛盾の止揚形態のモデルたりえないどころか、その内部の反体制派によって市民的自由、市民的諸権利の実現と保証が求められているのが現状である。」と述べている。

 そのような認識に踏まえて、第一章では、市民社会の矛盾を止揚した共同体について「市民社会の止揚とは、世界市場にまでを拡がり尽くした分業と交換の体系という物質的生活諸関係を、それよって生み出される巨大な生産力を継承することによって、結合した自由な諸個人による普遍的=世界的=全人類的交通へと転換すること、そしてそれと相即的に、労働の自己表現への転化によるその一面化の克服と諸個人の全体的発展を実現することを意味するのである。」と述べている。

 そのような共同体像を具体的に解明するためには、資本主義社会についての認識を総体化することが必要となる。すなわち、資本主義社会の物質的諸生活関係の総体の分析である『資本論』の成果を基礎としつつ、法律的および政治的上部構造、社会的諸意識形態の総体の本質的な連関をそれ自体として具体的に把握しなければならない。資本主義社会の全現実の必然的連関を歪めることなく、把握しようとすれば、経済的範疇と爾余の政治的、宗教的、哲学的、芸術的等の諸範疇の総体に立体的な連関構造を与えてゆかなければならないのである。マルクス思想の総体化とは、そのようなことを意味している。

 それによって、市民社会の止揚形態としての共同体における普遍的=世界的=全人類的交通の内実とその存立構造、共同体的諸個人がとり結ぶ物質的・精神的な交通関係の構造、そのうちにある諸個人の存在と意識の存立構造が解明される。しかし、それはあくまでも最終的課題である。本書で主要に行なったことは、「『資本論』における資本主義社会の物質的な社会関連の構造分析を、そのような総体的な理論課題の解決の方向へと展開しうる方向性の解明ということである」(第一章)。すなわち、世界認識の総体化ということを最終的課題としている。

 『市民社会と共同体』以降の全著作の内容は、そのような総体的な理論課題の解決の方向へと展開していったものである。マルクス思想を 総体化するということは、同時に、その世界認識の枠組みの狭さを明らかにするということでもある。すなわち、マルクスの世界認識それ自体をどのように総体化しようとも、それをもってしてはもはや解明することができない次元が存在する、ということである。

 そのようなマルクスの世界認識の枠組みの狭さを克服するために、『「資本論」と場所的経済学』では、『資本論』が分析対象とした社会の根底の次元の存在構造を、現代自然科学・哲学の自然・世界認識に基づいて具体的に解明している。

 さらに、『絶対無の哲学』では、超時間・空間的な無限絶対の実在界と時間・空間的な有限相対の実在界からなる四次元統合態としての全実在界の論理的存在構造を具体的に解明した統一的・総合的真理認識としての哲学体系が展開されている。ここにおいて、はじめて、『市民社会と共同体』において示された世界認識の総体化という課題が最終的に解決されたのである。

 そのような統一的・総合的真理認識にもとづいて、『創造的生命の形而上学』においては、近代科学技術文明を根本的に転換させて新たに創出すべき現実秩序の総体的存立構造を解明し、宗教的共同体・倫理的共同体・政治経済法的共同体として具体的なかたちで示している。市民社会の止揚形態としての共同体の存立構造を具体的・総体的なかたちで提示するという『市民社会と共同体』が掲げた最終的目的は、このようなものとして実現されたのである。

 本書が刊行された1979年に前後する頃から、マルクス主義に対する関心は急速に薄れてゆき、ソ連・東欧における社会主義の崩壊以降はほとんど顧みられことがないという状況にある。だが、全地球的規模にまで拡大した資本主義的市場経済システムが、環境破壊をはじめさまざまな問題を惹き起こし、全人類の共同によるぞれの個人の全体的発展の実現を抑圧している現在、マルクスの思想は、全実在界という総体的な枠組みの中に位置付け直し、再検討されるべきであろう。特に「市民社会の止揚形態としての共同体における結合した自由な諸個人よる普遍的=世界的=全人類的交通の内実とその存立構造の解明」という本書のテーマは、近代科学技術文明に代わる新たな現実秩序をどのようなものとして創出してゆくのかという観点から、再考察されなければならない。

 

目次

 序――共同体への基礎視角

第1章 全体的共同体像を確立のために

 第1節 なぜ、既成共産主義社会像は空虚なのか

 第2節 既成共同体像の恣意性・部分性の克服

第2章 前近代的共同体の解体と市民社会の成立

 第1節 近代市民社会の論理的・歴史的進歩性

 第2節 市民社会を幻想的に止揚する政治的国家

第3章 資本主義社会における階級対立とその止揚

 第1節 労働過程における存在と意識の分裂

 第2節 疎外された労働と自然哲学・経済学

 第3節 人間の自己分裂の表現形態としての階級対立

 態4節 労働者階級の存在と歴史的当為

第4章 資本主義社会批判と共同体像

 第1節 マルクスの立場――自然主義=人間主義

 第2節 現実の歴史と世界認識との相互的発展

 第3節 『資本論』と世界認識の総体化の課題

 第4節 土台−上部構造総体の変革と共同体

 結び――共同体創出への持続的追求

 あとがき

 


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